実験に集中する、心地よい緊張

本校に入学した学生は、最初の一年間、共通のカリキュラムに基づいて授業・実験を受けます。つまり「分析化学」の基盤となる実験技術や知識を習得するわけですね。特に前期には、化学実験の初歩的な操作を学びます。

今日は、生命バイオ分析学科と医療からだ高度分析学科の一年生の「基礎化学実験」の様子をお伝えします。このプログラムの「酸塩基抽出」を私は担当しています。すなわち、幾つかの有機化合物が溶け込んでいる溶剤から、酸性水溶液やアルカリ性水溶液で特定の物質だけを抽出しようというものです。実際の操作としては、混ざり合わない二つの液体(水と油!)を分液漏斗の中でじゃかじゃか振って混合し、水溶液に溶け出してきた物質を回収して分析することになります。有機化学でよく使う手法ですが、バイオを目指す学生も「分析化学者」を標榜する以上、身につけておくべきスキルと言えるでしょう。


※コレが分液漏斗です。

有機溶媒を使うので、どうしても溶剤っぽい臭いが部屋に充満します。換気をしっかりしながらの実験です。分液漏斗は初めてという学生がほとんどですので、最初はおっかなびっくりの様子でした。有機溶媒だけではなく、酸やアルカリを使うので、監督する側も気を使います。とは言え、おろおろしながら扱っているうちがむしろ安全かもしれません。「徒然草」の「高名の木登り」の逸話ではありませんが、ちょっと慣れてきた頃が危ないというのは、世の常かと思います。

と心配していたのですが、今日の学生さんたちは、和気あいあいとしながらも、特に後半はかなり集中して実験に取り組んでいました。誰もが、一言も喋ることなく、それぞれの作業に没頭する瞬間。少々驚きながらも、私は彼らの様子を興味深く観察していました。それは決して長い時間ではありませんでしたが、こういうモードに入れる学生の「潜在力」を嬉しく感じました(大げさかもしれませんが、二十人近くの人間が同時に集中するのは、決して簡単なことではありません)。同時に、そんな彼らの力を、私たち教員はもっと伸ばさなくてはならないと、改めて感じるに至ったわけです。いずれにせよ、心地よい緊張感を味わわせてくれた学生諸氏に感謝ですね。

ちなみに、私も十ン年前(?)はちょいとばかり有機合成の現場にいたので、分液漏斗を日常的に使っていました。今日、学生に対してデモ的に分液漏斗を振りながら、ちょっとだけ昔を懐かしんでいました。

by しめじ